「いまもメンバーリストに登録されている人は,そこにいるんだろうか」。
quote:AOLのインスタント・メッセージ(IM)のユーザーにいたずらする,チャッティングAIMボットという無料サービスがある。このサービスは人工知能を利用した対話型エージェントが標的のユーザーと当たり障りのない会話をし,そのあとで自分がロボットであるとユーザーに告げるというもの。会話が終わると,ボットはいたずらを仕掛けた張本人に会話の全文を転送する。
「ウサギさんとはよくチャットをしていた。一晩中チャットで会話し,わたしは寝ずに学校に行ったこともある。ウサギさんもきっと寝ないで仕事に行ったのかな。それとも,あまり時間に関係ないお仕事をしてるんだろうか。よくよく考えると,わたしはウサギさんのリアルでの名前も,顔も,住んでいるところも,なにも知らない。一度会ってチップをもらう約束をしたけど,待ち合わせ場所で結局ウサギさんのことをなにも知らないことに気付いて,帰ってきてしまった。チップは,鍵をかけないコインロッカーを決めてもらって受け取ることができた。
…ウサギさんと思われるIPから不正アクセスがあったのは,それからちょっとしてだった。その不正アクセスはわたしのPCから日記を持ち出し,結局わたしの日記はあちこちのアップローダにコピーされてみんなの笑いものになっていた。くやしい…,きっとウサギさんを犯人に見立てたいたずらを誰かが仕掛けたんだ。でも,それ以来ウサギさんとは会えずにいる。チャットはずっとログオフになってて,メールしても宛て先不明で戻ってきてしまう。不正アクセスは全部ブロックするようにしたけど,ウサギさんがどこに行ったのか,わたしは気になった。見つけ出すことは簡単だ。チャットサーバーにクラックしてアクセスし,ログから変異を読み取ってウサギさんの現在のIPを探し,そこにピングを打ち続けてみればいい。ウサギさんなら必ず,わたしになにかメッセージを送ってくるはずだ。でも,いま考えると…。あのときチャットしてたのは本当にウサギさんだったんだろうか。人工知能がわたしの相手をしてただけなんぢゃないだろうか。なら,わたしはいったい誰に仕返しすればいいの。わかんな(disconnection)」。
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